高血圧治療とCOVID-19リスクは逆相関する――都道府県別の検討
日本国内で高血圧治療を受けている患者数の人口比と、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性者の人口比とが逆相関するとのデータが報告された。国立病院機構宇多野病院脳神経内科の木下真幸子氏らが、全都道府県の状況を比較検討した結果であり、詳細は「International Journal of Infectious Diseases」に6月2日掲載された。著者らは、高血圧に対する治療がSARS-CoV-2感染に対して保護的に働いている可能性を述べている。
SARS-CoV-2はアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)を足場として細胞内に侵入する。ACEは血圧調節にかかわっており、ACE2はACEと同族だが逆の働きを持つ。国内では高血圧の治療にACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が多用されている。これらの降圧薬はACE2を増加させるため、パンデミック当初は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発症や重症化リスクを高める可能性が懸念されていたが、その後に否定され現在に至っている。ただし、高血圧自体がリスクを高める可能性については議論が続いており、また日本人対象の研究報告は十分でない。
木下氏らは、2017年の「患者調査」とSARS-CoV-2陽性者数報告のデータから、都道府県ごとに代表的な慢性疾患の患者数と陽性者数の人口比を算出。両者の間に有意な相関があるか否か検討した。なお、SARS-CoV-2陽性者数は、2020年4月の緊急事態宣言発出直前に当たる3月29日時点のデータを用いた。
解析の結果、患者調査における疾病大分類のうち「循環器系の疾患」やそのサブカテゴリーである「高血圧」の人口当たり患者数が多いほど、SARS-CoV-2陽性者率が低いという逆相関の関係が明らかになった。具体的には、スピアマン順位相関係数が、循環器系の疾患では-0.469、高血圧では-0.456だった(いずれもP<0.01)。
次に、高血圧患者数とSARS-CoV-2陽性者数の人口比を年齢で層別化して解析すると、35~44歳、45~54歳、55~64歳、75~84歳、および85歳以上の年齢層で、有意な逆相関が認められた。なお、高血圧以外に脳血管疾患や統合失調症などでも同様の有意な逆相関が認められたが、相関係数は高血圧が最も大きかった。
この結果から著者らは、「今回検討した種々の疾患の中で、SARS-CoV-2感染リスクと最も強い逆相関が示された疾患は高血圧であり、年齢を調整しても有意性が保たれていた。高血圧がSARS-CoV-2感染リスクを高める基礎疾患の一つに挙げられていることを勘案すると、この予想外とも言える関連を最も無理なく説明可能な理由は、国内で頻用される降圧薬の潜在的な保護効果ではないか」と述べている。その具体的なメカニズムについては、既報からの考察として、ACE阻害薬やARBは一酸化窒素(NO)を誘導し血管内皮機能を改善すること、NOには抗ウイルス作用も認められること、また、ACE2にも血管や肺の保護作用があることなどを挙げている。(HealthDay News 2021年7月5日)
Abstract/Full Text
https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(21)00474-4/fulltext
Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.
当コンテンツは、AJ Advisers
LLCヘルスデージャパン提供の情報を元に掲載しております。
ヘルスデージャパンのコンテンツに関する利用規定はこちらをご参照ください。
免責事項
- ギリアド・サイエンシズ インクおよびその子会社(併せて「ギリアド社」といいます)が事前に書面により同意した場合を除き、当コンテンツを複写、複製、印刷することは禁止されています。
- すべての情報は「現状のまま」提供されるものであり、ギリアド社が、当コンテンツに掲載されている情報の正確さを保証するものではありません。
- 当コンテンツで得られた情報の利用により、閲覧者または閲覧者が所属する団体等において不都合、不利益または損害などが発生することとなっても、その原因が何であれ、または上記情報の利用と上記不都合、不利益もしくは損害等との因果関係が直接的であれ、ギリアド社は一切の責任を負いません。
- 当コンテンツで掲載されている情報について、ギリアド社は問い合わせ等を受け付けていません。
- 当コンテンツは、未承認薬または適応外使用に関する広告活動の禁止の趣旨を考慮の上、医学・薬学の専門家が科学・医学の進歩について知る権利の重要性に鑑みて提供するものです。ギリアド社は、当コンテンツに含まれる情報によって閲覧者の購入意欲を昂進させる意図は有していません。