COVID-19に対する未承認治療の広告・宣伝――米国における実態
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やその後遺症(long COVID)に対する有効性が確認されていない幹細胞治療、あるいはエクソソーム治療に関する広告・宣伝を行っている企業が、米国内に多数存在していると警告する論文が「Stem Cell Reports」に10月26日掲載された。米カリフォルニア大学アーバイン校のLeigh Turner氏らの報告。
米国では食品医薬品局(FDA)などの規制当局に承認されておらず、有効性や安全性の実証のない医療を商品化している企業が少なくない。COVID-19パンデミック以降は、幹細胞治療やエクソソーム治療といった研究段階の治療法がCOVID-19に有効とする広告・宣伝もされている。Turner氏らはその実態を、各社のwebサイトを確認するという手法により調査。その結果、COVID-19に対する広告・宣伝を行っている企業38社と、60カ所のクリニックを特定した。60のクリニックのうち24施設は米国内、22施設はメキシコに拠点を置いていた。
特定された38社のうち36社は、幹細胞治療やエクソソーム治療をlong COVIDの治療法として利用を呼びかけ、6社はそれらを「免疫増強薬」として宣伝。また5社は、感染症急性期の治療に利用可能であるとし、2社は予防効果をうたっていた。論文の筆頭著者であるTurner氏は、「これらの企業は、治療法が確立されていないlong COVIDに罹患している人々の絶望感をビジネスに利用している。彼らは、自分たちの提供している介入手段が、未承認であって有効性が実証されていない、実験的なものであることを明示していない」と話している。
米疾病対策センター(CDC)は、FDAが承認している幹細胞治療は、特定のがん、血液疾患、免疫疾患の治療目的などわずかにとどまり、さらにエクソソーム治療については全く承認されていないとしている。エクソソームは幹細胞から分泌される細胞外小胞で、組織や細胞の修復や再生を促す可能性があり、治療への応用が研究されている。Turner氏によるとエクソソーム治療は、「他者の幹細胞を投与するわけではないために、より安全な方法で幹細胞治療のメリットを得られ、かつ合併症のリスクを抑制できる」といった主張がなされることが多いという。
Turner氏らは、パンデミックの初期に「COVID-19の治療法」として、無認可で実証の裏付けのない幹細胞治療が企業によって宣伝されている実態を報告していた。今回の調査では、それらの企業の多くが現在は、「long COVIDの治療法」として同じ介入手段を宣伝していることが明らかになった。各社のwebに記載されている治療費は、最も安価なもので2,950ドル、最も高価なものでは2万5,000ドルであり、平均1万1,322ドルだった。
これらの介入手段は有効性が確認されていないだけでなく、安全性も十分確立していない。CDCやTurner氏によると、幹細胞治療やエクソソーム治療には、感染症、肺塞栓症、脳卒中、発癌などのリスクがあるという。「高額の治療費を払っても治らないばかりでなく、非常に深刻な合併症が起きてしまうこともあり得る。エビデンスのない広告や宣伝は懐疑的に見るべきだ」とTurner氏は忠告している。
本研究には関与していない米ヴァンダービルト大学のWilliam Schaffner氏は、COVID-19への幹細胞治療が商品化されているという実態は把握していなかったが、報告された事実に驚くことなく次のように述べている。「治療法が確立されていない慢性疾患に関しては、科学的根拠のない治療法を主張するペテン師が現れて、患者を食い物にすることがある。『うますぎる話だ』と思ったら、それはおそらく本当に『うますぎる話』なのだ」。
Schaffner氏はまた、「非常に単純な質問を自分に問いかけてみてほしい。もし本当にlong COVIDに有効な治療法があるなら、なぜ医学会はそれについて何の情報も発信しないのだろうか? 患者にメリットとなることを、医学会全体が無視するなど、理にかなっていない」とも語っている。(HealthDay News 2023年10月26日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(23)00374-0
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