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COVID-19 REGISTRY JAPAN(COVIREGI-JP)のデータを用いた重症腎不全を有するCOVID-19患者におけるベクルリーの有用性に関する国内全国コホート研究
Yamada G, et al.: Infect Dis (Lond). 2024 Oct 6:1-10. doi: 10.1080/23744235.2024.2409729. Epub ahead of print.
9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋)
9.2 腎機能障害患者
添加剤スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムの尿細管への蓄積により、腎機能障害が悪化するおそれがある。非臨床試験でレムデシビルに腎尿細管への影響が認められている。[8.3、15.2、16.6.2 参照]
研究概要
目的 | COVID-19と重度腎不全を有する患者に対して早期にベクルリーの投与を開始することで、死亡やIMV(侵襲的人工呼吸器)/ECMO(体外式膜型人工肺)開始のリスクが低下するかどうかを検討する。 |
対象 | 2020年1月1日から2023年5月8日までに日本の医療機関に入院していた重度腎不全(血清クレアチニン値3mg/dL以上、維持透析中、または腎移植レシピエント)を有するCOVID-19患者1,449名を対象とした。 |
方法 | 本邦のCOVID-19入院患者データベースであるCOVID-19 REGISTRY JAPAN(COVIREGI-JP)のデータを用いたレトロスペクティブ観察研究。重症腎不全を有している発症から7日以内の非重症(低流量の酸素供給、または酸素供給不要)のCOVID-19患者に対して、入院から2日以内にベルリーを投与した※。 |
主要評価項目 | ランドマーク*時点(発症後7日目)から28日間の死亡とIMV/ECMO開始の複合エンドポイント。 |
サブグループ解析 | ベクルリーの有効性が異なる可能性のある下記のサブグループにおいて、ベクルリーの効果を評価した。 (1)入院前の維持透析、(2) 入院時の呼吸不全、(3) オミクロン株流行前後、(4) 発症から入院までの期間(4日以下対4日超)、(5) ワクチン接種状況 |
解析計画 | 患者のベースライン要約統計量を算出し、中央値(四分位範囲;IQR)または数値(百分率)で報告した。発症から7日以内にベクルリーを開始した場合のintention-to-treat(ITT)効果を推定した。不死時間バイアス**に対処するためランドマーク解析を用いた。本研究では発症から7日目を主要解析のランドマーク時点とした。ランドマーク時点で入院しており、(1)発症から7日時点まで、かつ(2)入院後2日間にベクルリーを開始した患者をベクルリー群に分類した。非調整生存率はカプランマイヤー法を用いて推定した。Cox比例ハザード回帰を用いて、アウトカムの発生に対するベクルリー開始の調整ハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を推定した。また、結果の頑健性を評価するために感度解析を行った。交互作用項、サブグループ変数、ベクルリー使用、交絡因子をアウトカムモデルに含め、交互作用を検定した。交互作用検定の統計学的有意差は両側p<0.05とした。この交互作用解析は探索的であり、p値の補正は行わなかった。 |
※本研究では、ベクルリー群のうち249例(91.5%)が用法・用量どおりに1日目に200mg、2日目から1回100mgを投与されていました。それ以外の患者に対する投与量については記載がありません。弊社では電子添文に則った適正使用を推進しております。
*ランドマーク:事前に指定された共通の時点、いわゆるランドマークで追跡時間を分割する解析方法。この解析を用いることで、ランドマーク後に発生したイベントのみ考慮することができ不死時間バイアスを避けることができる2。
**不死時間バイアス:追跡中あるいは観察期間において死亡が起こりえない期間、たとえば薬剤投与群は薬剤投与開始までの期間は必ず生存していることによって生じるバイアス3。
サマリー:COVID-19 REGISTRY JAPAN(COVIREGI-JP)のデータを用いた重症腎不全を有するCOVID-19患者におけるベクルリーの有用性に関する国内全国コホート研究
発症から7日以内に日本の病院に入院したCOVID-19および重症腎不全の非重症患者1,449例を対象に、ベクルリーの早期投与の有効性を検討した研究において以下の結果が得られました。
主要評価項目(ランドマーク時点から28日間の死亡とIMV/ECMO開始の複合エンドポイント)
- ベクルリー群※は対照群と比較して死亡およびIMV/ECMO開始のリスクを有意に低下させました(HR:0.44、95%CI 0.23-0.83、Cox比例ハザード回帰、探索的結果)。
サブグループ解析
- ベクルリーの有効性を各サブグループにおいても検討したところ、各サブグループ間での交互作用の有意差は認められず、どのサブグループにおいてもベクルリーが死亡およびIMV/ECMO開始のリスクを有意に低下させることが示唆されました(交互作用のp値;入院前からの維持透析 p=0.22、入院時の呼吸不全 p=0.68、オミクロン株流行前後 p=0.13、発症から入院前の期間 p=0.33、ワクチン接種状況 p=0.48、Cox比例ハザード回帰、名目上のp値、探索的解析項目)。
- オミクロン株と非オミクロン株の流行期間において一貫した有効性が示唆されたことは(オミクロン株流行前後 交互作用のp=0.13)、オミクロン変異株とそれ以前の株に対してベクルリーの有効性がいずれも同等であることを示したこれまでの知見(in vitro)4や、大規模なデータセットを利用したレトロスペクティブ研究の結果(海外データ)と一致していました5。
※本研究では、ベクルリー群のうち249例(91.5%)が用法・用量どおりに1日目に200mg、2日目から1回100mgを投与されていました。それ以外の患者に対する投与量については記載がありません。弊社では電子添文に則った適正使用を推進しております。
研究デザイン
重症腎不全を有するCOVID-19患者におけるベクルリーの有効性を検討した
COVIREGI-JPによるレトロスペクティブ観察研究
主な選択基準
- COVID-19検査の結果が陽性の患者
- 2020年1月1日から2023年5月8日までの期間に日本の医療機関に入院した患者
- 入院前に重症腎不全(血清クレアチニン値3mg/dL以上、維持透析中、または腎移植レシピエント)を合併していた患者
主な除外基準
- 18歳未満
- 妊婦
- AST値またはALT値が正常上限の5倍超
- 入院時にすでに高流量の酸素供給(HFNC、NPPV、IMVなど)を受けていた
- 発症から入院までに7日超経過していた
- 入院前にベクルリーを開始していた
- 発症日不明
ランドマーク時点での患者背景
- 年齢の中央値は74歳(IQR;62-84)、男性が992例(68.5%)であり、日本人が1,335例(98.7%)でした。
- ベクルリー投与期間の中央値は5日間(IQR, 3-5)でした。
*曝露期間: (1)発症から7日時点まで、かつ(2)入院後2日間
BMI:Body Mass Index、HIV:ヒト免疫不全ウイルス、NEWS:National Early Warning Score、AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ、LDH:乳酸脱水素酵素、CRP:C反応性蛋白
†パーセンテージは分母から欠損データを除外して算出した。ベクルリー群、対照群、合計の欠損データ数は以下の通り:ALT:5、84、89;LDH:19、108、127;CRP:6、98、104;リンパ球数: 21, 146, 167.
※COVID-19の併用療法を曝露期間終了前に開始した場合。
Effectiveness of remdesivir in patients with COVID-19 and severe renal insufficiency: a nationwide cohort study in Japan,
Gen Yamada et al, Infectious diseases, copyright © Oct 2024 Society for Scandinavian Journal of Infectious Diseases,
reprinted by permission of Taylor & Francis Ltd, http://www.tandfonline.com on behalf of Society for Scandinavian Journal of Infectious Diseases.
ランドマーク時点から28日間の転帰(主要評価項目)
- ランドマーク時点から28日間のうちに、ベクルリー群の19例(7.0%)および対照群の136例(11.6%)が死亡もしくはIMV/ECMO開始に至りました。
- ベクルリー群の34例(12.5%)および対照群の145例(12.3%)が、それぞれ転院のため打ち切られました。
*曝露期間: (1)発症から7日時点まで、かつ(2)入院後2日間
IMV/ECMO:侵襲的人工呼吸器/体外式膜型人工肺
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ランドマーク時点以降の無転帰生存のカプランマイヤー生存曲線
- 患者は、ランドマーク時点から退院、転院、または死亡が最初に発生するまで最長28日間追跡されました。
- 28日以前に退院した場合、患者は28日目に右側打ち切り(観察期間中にイベントが発生しない打ち切り)とし、28日以内に転院した場合、患者はその時点で打ち切られました。
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ランドマーク時点から28日間の転帰(主要評価項目)
- ベクルリー群は対照群と比較して死亡およびIMV/ECMO開始のリスクを有意に低下させました(HR:0.44、95%CI 0.23-0.83、Cox比例ハザード回帰、探索的結果)。
- 主要評価項目の結果は4つの感度分析の結果と一貫していました(交互作用*のp値 NA)。
*交互作用:主要解析で得られた結果が共変量などにより影響を受ける状態を「交互作用あり」という。検定により交互作用が否定されれば(統計的有意差がなければ)主要解析の結果は一貫性があるとされる6。
§:名目上のp値、HR:ハザード比、HD:血液透析、ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ、NEWS:National Early Warning Score、LDH:乳酸脱水素酵素、CRP:C反応性蛋白
※性別、年齢、喫煙状況、流行波、ワクチン接種状況、症状発現から入院までの日数、肥満、高血圧、脂質異常症、免疫不全状態、血液透析、チャールソン併存疾患指数、入院時NEWS、入院時ALT、入院時LDH、入院時CRP、入院時リンパ球数、入院前の抗凝固療法、曝露期間終了前に開始されたCOVID-19の併用療法(中和抗体:カシリビマブ/イムデビマブまたはソトロビマブ、免疫調節薬:トシリズマブまたはバリシチニブ、コルチコステロイド、モルヌピラビル)で調整したランドマーク解析から推定。欠損データを考慮するため、連鎖方程式による多重代入法を用いて50のデータセットを作成し、各データセットで得られた推定値をRubinの法則を用いて統合した。
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Gen Yamada et al, Infectious diseases, copyright © Oct 2024 Society for Scandinavian Journal of Infectious Diseases,
reprinted by permission of Taylor & Francis Ltd, http://www.tandfonline.com on behalf of Society for Scandinavian Journal of Infectious Diseases.
本研究の限界と安全性情報について
本研究の限界
- ワクチンの接種日に関するデータが大幅に欠測していたため、ワクチンの接種状況は接種回数のみに基づいて分類されました。その結果、2回目のワクチン接種から14日以内にワクチン接種を受けた患者は、ワクチン接種済みに分類されました。
- 心肺蘇生拒否(do-not-resuscitate:DNR)に関するデータは入手できませんでした。入院時にDNRの意思を示していた患者は、ベクルリーの供給が不十分であった時期、特にパンデミックの初期には、ベクルリー投与の対象から除外されていた可能性がありました。
- ベースラインの腎不全を引き起こす基礎疾患に関する情報が得られませんでした。さらに、維持透析を受けた患者では透析期間に関する情報が得られませんでした。
- COVIREGI-JPは病院の自発的な参加に依存したレジストリであり、日本のCOVID-19患者すべてを代表するものではない可能性があります。さらに、このレジストリは入院患者を対象としているため、外来で治療を受けた患者を除外するという選択バイアスが生じます。外来患者は、死亡や人工呼吸器装着などの重篤な転帰のリスクが低いため、ベクルリーの恩恵を受けにくい可能性があります。入院時の重症度(呼吸不全の有無)に基づくサブグループ解析では、ベクルリーの有効性に有意差は認められませんでした。これらの知見を非入院患者に一般化する際には注意が必要です。
- 人種情報が得られた患者の98.7%が日本人でした。しかし、人種によるベクルリーの有効性に関する明確な差は過去に報告されていないことから、日本人ではない患者への本知見の適応について問題ないと考えられます。
本論文では安全性評価がされていないため、ベクルリーの安全性情報については電子添文をご参照ください。
1.Yamada G, et al.: Infect Dis (Lond). 2024 Oct 6:1-10. doi: 10.1080/23744235.2024.2409729. Epub ahead of print。
2.Gleiss A,:Transpl Int. 2018; 31(2):125-130.
3.野尻宗子:YAKUGAKU ZASSHI. 2015; 135(6 ):793-808.
4.Takashita E, et al.: N Engl J Med. 2022;386(10):995–998.
5.Mozaffari E, et al.: Clin Infect Dis. 2023;77(12):1626–1634. 本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
6.Origasa H: JAPANESE JOURNAL OF BIOMETRICS. 1993. 14(1.2): 17-30.